95歳の引っ越し

 Aさん(95)奥さん(85)夫婦が北九州から他市へ転居した。引っ越しのサポートを頼まれた。お子さんはいない。ともに頭はしっかりしているが体が十分動かない為、77歳の私でも少しは役に立つだろうと向かった。狭いが暖房が効いた暖かい部屋に私達を迎えてくれた。

 話を伺うとお二人とも転居に乗り気でない。「1LKの今の生活が一番いい」と言う。訳を聞くと唯一の遠い親族から「3DKの部屋に既に賃貸契約した。すぐ転居して」と1週間前に連絡があったのだそうだ。

 親族は「近くで、広い部屋でゆっくり老後ライフを過ごしてほしい」との善意だったのだろう、多分。だが出発まで3日間、最後まで二人とも元気がなかった。環境が変わることに不安があるのかも、反対する材料もなく従わざるをえなかったのかもしれない。

 二人が転居した翌日は「2月並みの寒い朝」だった。「Aさんたち、だだっ広い部屋で寒くないかねぇ、風邪ひかにゃいいけどね」と妻が冬空を見上げながら言った。

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